マリーのアトリエ
第一章
〜ザールブルグの錬金術士〜
 

第1話  五年間の成果?

  アカデミーの中心にある部屋、ココって暗くていやなのよね。ただ暗いだけならまだしも、ココが成績の悪いワタシにとってはいい思い出のない部屋、イングリド先生の部屋だから尚怖い。今まで何度も呼び出されては怒られてきたからね。暗い部屋でロウソクの炎に照らされた先生の顔の怖いことといったら・・・・・・。今までは注意だけで済んだけど、この前の試験もさっぱりだったし、今度こそはもしかして、もしそうだったら、何て言い訳しよう──などと入り口のドアの前で入るタイミングを伺ってウロウロしていると、中から声がする。
「マリー、いるんでしょ、入ってきなさい。」
 げっ、ばれてる、考える時間がなかった。しょうがない。
 私は、雰囲気に負けないように、大きく深呼吸をして、ドアを開けた。でもその途端──私は硬直してしまった。自分で言うのも何だけど、この鈍い私が、ただならぬ雰囲気を感じたの。そのままおずおずと、イングリド先生に近寄り、立ち止まる。先生は話し始めた。
「よくお聞きなさい、マルローネ。」
 やっと我に返って、慌てて返事する。
「は・・・はい・・・」
 胸がドキドキする。勿論悪い意味で。心臓に悪いわ、こりゃ。
「あなたも良くわかっていると思うけど・・・。あなたの成績は、アカデミー創立以来過去最低・・・・・・。」
 う゛っ、やっぱりその話か・・・。っていうか、わかってはいたことだけど、それでもやっぱりドキッとする。先生はそのまま続ける。
「このままでは、卒業試験に合格することは不可能よ───つまり・・・」
 つまり?
「留年ってことになるわね・・・」
 うぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!そうきたかぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!このままいったらそうなるとは思っていたけど、そんなに断言して言われるとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっっっっっ!あぁそんなそんな、どうしようどうしよう、もし、留年になったら、死んだほうがましかもそうかも──などと頭の中でぐるぐるぐるぅぅとコトバが回る。あぁなんか自殺しかねない勢いだよぉ、天井から縄でもぶら下げちゃおうかしら。あぁ、最後は私をスポットライトで照らしてぇ〜!とか思ってると、先生の一言で我に返る。
「まあおまちなさい。そこで・・・あなたには特別な試験を行います。」
 えっ?
「いいですかマルローネ。あなたに五年という時間と店を兼ねた一軒の工房。それからわずかですが銀貨を与えます。五年後に何かひとつ作品を作って私のところへ持っていらっしゃい。その作品を見てあなたの錬金術士(アルケミスト)としての力を評価し、卒業を認めるか否かの判断を下します。」
 ・・・・・・それならまだ何とかなるかも……。
「いいわね?」
「あ・・・はいっ、イングリド先生!!」
「どんな作品を見せてくれるのか五年間楽しみに待っているわよ。」
 ほっとする私を見て、先生もにっこり笑う。
「でももし、つまらない物を持ってきた時は・・・・・・」
 とおもったら、突然表情が変わる。
「覚悟なさいね──・・・」
 私の目には、先生の眼孔が鈍く光り、何か全身から気が放出されているように見えたわ。ああいうのをオーラって言うのね多分。うん。まぁ、つまり、それほど怖かったって事なのよね。血の気が引くくらい。
 ──というのが今から丁度五年前の話。つまり今日が、私の卒業試験の日。ちゃんとこうして作品も持ってきたし、はっきり言ってかなり自信アリ、なのよぉ〜ん♪。と、自信を持って先生の部屋に入る。
「先生っ!持ってきましたぁ!」
 それを見て先生、
「待ってましたよマリー。」
 優しく微笑んでくれた。
「で、何を持ってきてくれたの?」
 そこで私、
「これです!!」
 自信満々に差し出す。
「これは?」
「○△▼☆□×◇です!」
 あれ?何でこんなに抽象的なの?・・・・・・まぁ、イイや。
「○△▼☆□×◇ですって!?」
 驚いている先生。
やった!これで卒業できるっ!
「で、マリー。ホントは何を持ってきたの?」
「えっ????」
「いや、だから、前置きはいいからホントの本命は何?」
「・・・これが本命なんですけど──」
「・・・・・・・・・・・・ふざけるなぁーーーーっ!!!!」
「きゃあっ?」
 わけが分からない。
「五年も掛かってこんな初歩的な物を作ってきてー!!」
 うそ、そんな・・・・・・。
「あなたなんか即刻退学よっ!!」
「うわあぁぁぁぁああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


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