マリーのアトリエ番外編

ショートショート2

患い

 

 

いや、その…アレだ。

なんというかまあ…。

じゃない。

えっと…。

『親愛なる――』

…いやおかしいだろ。そうじゃない。

えっと…。あぁ〜、くそう。なんで俺はこう、『文才』ってやつが無いんだ。

…参ったな……。

 

コンコン

ドアが叩かれる。

 

「ごめんよ今取り込んでるんだ。また後にしてくれ」

 

「……あ」

『彼』は慌てて扉を開けた。

扉の向こうには青年が一人しかめっ面をして立っていた。

重厚な青い鎧を着ている。

「お前が来てくれと言うからわざわざ来てやったんだぞ」

「アハハ、いやすまんすまん。つい、な」

青年は溜息を一つついてから。

「まあ、構わんさ」

部屋に入って来た。

「で、なんだ。俺を呼び出すぐらいだ。大層なことなんだろうな」

「ああ、大層な事だ」

「そうか」

「そうだ」

「で、なんだ」

「うむ」

「…………」

「…………」

「いや、だからなんだ」

「うむ」

「…………」

「…………俺帰るわ」

「ああっ、ちょ、ま、わかった。わかった」

青年はまた溜息をついた。

「俺も暇じゃないんだ」

「ああ、わかってる」

「じゃあ、なんだ」

「えっと…その…だな…」

「…………」

「あの…その…アレだ」

「…………」

「…………」

「…………やっぱ帰るわ」

「ああっ、すまん、言う、言うから、チョット待ってくれ」

青年は三度目の溜息をついた。

「ホントに…しょうがないヤツだなお前は」

「あぁ…全くだ…」

「で、今度は誰を好きになった?」

ニヤリと青年は笑った。

「はあ?」

「お前がこんなにうじうじするのはそういう事ぐらいしかないだろ。違うか?」

「いや…よくわかるな」

「何言ってんだ。お前とは鼻水垂らしてたガキの頃からの付き合いだ」

「まあ、そうだな」

「で、今度は誰だ」

「いや、それがその…」

「…なんだよ。なんでまたそうなんだよ。どっかの高嶺の花なのか?」

「いや、そういう…わけでもない…と思う」

「ハッキリしねえな」

「…………」

「おかしなヤツだな。前の…ほら何て言ったっけか。ふ、ふ、ふら…フラウだっけか。酒場の娘の。あのお嬢の――」

「……フレアさんだ」

「ああそうか。そのフレアお嬢の……ん?」

「…………」

「…おい…まさか…」

「あぁ、そのまさかだ」

「なぁんだとぉ!? お前っっ! え!? あ? 冗談だろ!?」

「…………」

「おぃおぃ!? マジかよ? だってお前、あれは……1、2…3年ぐらい前の事じゃねえかよ?」

「あぁ…そうだな」

「……全く…呆れたね。なんで好きなのにそうやって遠くから眺めてるだけでいいのかね。俺には我慢ならんな」

「そうだろな」

青年は再び何度目かの溜息をついた。

「まあいいさ。で? 今度こそ告白しようってか?」

「いや……」

「あ? なんだこりゃ。」

「その…手紙をな…」

「ラブレターで告白しようってか?」

「あぁ…そうだ」

「それで俺にその文章を考えて欲しいってわけだ」

「あぁ」

「ダメだな」

「なんでだよ?」

「ダメだからダメだ」

「いいじゃないかよ?」

「いや、ダメだ」

「理由を教えてくれよ」

「勘だ」

「タダの勘で…」

「あぁ、そうだ。お前はラブレターなんかよりも絶対に直接告白するべきなんだ」

「なんでそこまで言えるんだ…」

「このテに関しての俺の勘はよく当たるんだ」

「じゃあ…その時なんて言うんだ」

「それぐらい自分で考えろ」

「えぇ!?」

「じゃあな」

青年は立ち上がると扉に向かって歩き出した。

「おい!?」

扉を開いたところで青年は立ち止まって、ゆっくりとこちらを向いた。

「告白なんてのは『自分の想い』を『自分の言葉』で表現するものだ。俺が何か助言したらそれはもう『お前の言葉』じゃなくなっちまう…そうだろ?」

「あぁ…そうか…そうだな」

「じゃあな」

「ああ、ありがとう」

二人は向き合って敬礼をした。

「健闘を祈る」

「おう」

「残念会の準備はしといてやるよ」

ニヤッと笑って言う。

「余計なお世話だ」

「さて…早く帰らないと隊長にどやされちまう。巡回だって抜けてきてるんでね」

そこまで言うと青年は待たせていた馬の背に飛び乗り颯爽と街中へ消えていった。

その後姿をしばし見送った後、彼は部屋に戻った。

そうしてやっと彼は本当の問題に気がついた。

「だから、俺、それが出来てりゃとっくに告白してるんだって〜」

 

こうして今日も彼は酒場に通い続けるのである。

秘めたる想いをその胸に持って。

 

(終)

 


ライブラリに戻る