マリーのアトリエ
第二章
〜約束〜

 −私は待つことしかできないのです−
 −マリーが笑顔で帰ってくるその日を夢見て−
 ・・・・・・少しお話ししましょうか・・・・・・あの二日間の出来事を・・・・・・
 まずはその日までの経緯を・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・マリーは、半年ほど前に、私の病気を大変な苦労を元に作り上げたエリキシルで治し、その評判が街中、いえ、大陸中に様々な噂話を伴って広がりました。みんなマリーを褒め称えました。
 ・・・・・・なにしろエリキシルと言えば、その材料の採取と調合の難しさが特徴です。
 まず、その材料の必要量は、遙かに常識を逸しています。
 そして材料を全て集めたとしても、エリキシルを作り上げる為には、只でさえ難しい上級の調合で作られる、『ミスティカティ』や、『アルテナの傷薬』、『ガッシュの木炭』などを、更に混ぜ合わせるというとても難しい調合をしなければならないそうです。
 ここのアカデミーの主席であるクライスさんといえども、それどころか、ここ数世紀、完成させた人はいないとさえ言われているらしいのです。
 そういうこともあって、世界中の国々・・・・・・よくはわかりませんが、どこか遠くにある、魔法文化の点では発展途上国である国々からアカデミーに沢山の使者が来ました。
その使者は皆口をそろえて言いました。
「マルローネ・ドナースターク女史に是非我が国の魔法文化発展に協力していただきたく、是非我が国でご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げたく候。」
 アカデミーは当初、丁重にお断りしていました。しかし、使者の数は一向に減る気配を見せませんでした。それどころか中には半ば脅迫的な者も現れ始めました。
 ・・・・・・いくらこの国が治安がいいとは言っても、大陸の数十ある国の一つに過ぎません。周りの国々を敵に回すようなことは戦争を引き起こしかねません。
 こうして、国とアカデミーは、とうとう折れ、マリーに半ば強制的に依頼のあった国々へ向かえと言うようなことが命じられました。その依頼のあった国々の数、その滞在期間、移動にかかる時間、これらを考えると、順調にいって、どんなに短くても半年、長ければそれこそ一年や二年、もしかしたら三年や四年掛かってしまうかもしれない、ということのようです。もっと悪ければ、十年単位で帰って来られないかもしれません。
 しかもその国々の中には、大変な『軍国主義』というのでしょうか? とにかく、軍人達が政治権力を掌握しているような軍事大国が在り、そんな国にマリーの技術、と言うよりも魔法全般の技術を教えてしまったらどんなことになってしまうのでしょうか? きっと戦争に役立てようとするはずです、そして周辺諸国への侵略を開始するかも知れません。しかもその技術を教えたあと、マリーはもう用無しだとされて、殺されてしまうかも・・・・・・。マリーのこれからを考えると、そんな悪いことばかりが頭をよぎって、益々不安になってしまいます。
 アカデミーは、約束の5年間は経っていませんでしたが、マリーに卒業証書を発行し、国はすぐにでもアカデミーに、マリーを国外に向かわせるよういいましたが、イングリド先生が意見をして、準備期間と称して、半年間を無理矢理にとってくださいました。
 国の出した命令は、表向きは留学ですが、実質、マリーはシグザール王国が生き延びる為の身代わりとされたのでした。生け贄といってもいいかも知れません。
 マリーはこの時既に全てのアカデミーの本を読み尽くし、本当に立派な錬金術士になっていました。もう全ての調合を成功させ、いまや、新薬の開発にいそしむ日々のようです。と思いきや、日々取材を受け、そうもいかず、それはそれで忙しいようです。
 私は、日が経つにつれて、マリーに会いに行きにくくなっていました。そのためマリーと私は、私の病気が回復して以来、一向に会えなくなっていました。そして月日ばかりが過ぎていったのでした・・・・・・・・・・・・。
「マリーに会いたい」そう思っても、ただマリーの噂だけが、耳に入って来るだけなのです。そしてその噂を聞く度、私の思いは募るばかりなのでした。


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