| あの二日間の出来事、みっつめ そして旅立ち 次の日、目を覚ました私は、外の景色を見てとても驚きました。もう既に日が高く昇っています!
「マリー! もうこんな時間よ! 早く起きないと! マリー! ・・・・・・マリー?」
横を見るとマリーの姿がありません。そんな、まさかマリーは私を置いてもう既に家を出て行ってしまったの!?
「・・・んー・・・・・・。」
「・・・・・・?」
よく見るとマリーは、ベッドから落ちていたのでした。でもまだ床で寝ているのでした。あぁまだマリーは家にいたんだ。よかったわ・・・・・・! そうじゃない!
「マリー、起きて起きて! もうこんな時間よ!?」
「んー。まだ後少し・・・・・・。」
「もぅー。」
・・・・・・妙案が浮かびました。大きく息を吸って声色を変えて発声します。
「こらっ!マルローネ!居眠りするんじゃあない!」
「・・・っ!! きゃーっ! イングリド先生ごめんなさぁーいっ!」
「ふふっ・・・・・・。」
「・・・・・・??? ・・・あれ? シアぁ? またもうー。」
案の定、先生に怒られると思ってマリーは飛び起き、床で土下座をしてしまいました。 そして、人というのは、良くも悪くも、極度の緊張から開放されると涙が出るようで、マリーも目が潤んでいます。そんなマリーを見ると、何故かとてもほのぼのとして、安心してしまいます。でもそんな風に安心している場合ではありません。
「マリー、もうこんな時間なのよ! 早くしないとセレモニーに間に合わないわっ!」
「えっ! うそっ!」
「こんな時に嘘言ってどうするのよ!ほら外見てみなさいよ!」
「あっ! ホントだっ! やばっっ!」
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「あら、今日はこれ着ないの?」
「うーん・・・・・・なんかさ、アカデミーが、『これ着ろ』って新しい服くれたのよ。えーっと、何処行ったかな、・・・・・・あぁこれこれ。でも街を出たら着替えるから、それたたんでいつもの鞄の中に入れといてくれるかな?」
「ええ、わかったわ。」
*
*
*
「あぁーんなによコレー? どうやって着るのー? シアー手伝ってー。」
「えー? なぁにー? ・・・・・・違うわよ。コレはココに。あら? コレ全部違うわよ。」
「えーうそー。時間がーあぁー。」
「しょうがないでしょー。寝坊した方が悪いんだから。」
「でーもー、でーもー。」
「あーもう、デモもストライキもないの! だだこねてる暇があったら少しでも急ぐの!」
「・・・・・・。」
「・・・どうしたの? 固まっちゃって。」
「シ、シアが、ダジャレを・・・・・・。」
「ええ、そうよ?」
「おもしろくない・・・・・・。」
「!! ・・・・・・・・・・・・!!」
「わー! ぎゃー! イはイ! イはイ! やめへぇー! じょーだんでふー! ぐぉめんなはーい!」
「分かればよろしいわ。」
「つぅっ、うぅ・・・・・・シアって、やっぱり時々とてつもなく怖いわ・・・・・・。」
「まだなにか?」
「いえっ、いいえっ、何でも、ないです、ハイ・・・・・・。」
*
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「へぇー・・・・・・。」
「・・・・・・な、なに?」
「姿だけ見たら立派な錬金術士ね。」
「なにようー。もう今の私を昔の私と思うべからずっっ。てなもんよ?」
「ふふ、そうね。もう立派な錬金術士・・・・・・かしら?」
「まだ言うー。だってわた・・・
「あぁっ! こんなにくつろいでる場合じゃないわ!」
「ああ、そうだったっっ!」
*
*
*
私たちはお城の前のセレモニー会場まで走ってきました。
「ほらほら髪が乱れてるわ。ココも裾がおかしくなってるわ。・・・・・・これでよし。・・・・・・じゃ、セレモニー頑張って。」
「うん、ありがと。」
「もう本当にお別れね。」
「そんなーおおげさなー。ちょっと逢えなくなるだけなんだし。そもそも、二度と逢えなくなるわけじゃないって言ったのはシアでしょ?」
「え、ええ。そうね。・・・・・・じゃ、ムチャはしないでね。」
「うん、わかってるってば、んもうシアったら、最後まで心配性なんだから。じゃあ、またね。」
そういってマリーは走って行ってしまいました。
ドルニエ校長の開会の言葉で、荘厳なファンファーレが鳴り響き、セレモニーが始まりました。
それに続いて、イングリド先生や、シグザール王国第8代国王であらせられる、ヴィント・シグザール国王様、等の方々による、お祝いの言葉や、賛辞の言葉へと続きました。
アカデミーのセレモニーの最中、マリーは恥ずかしそうにうつむいていました。でも、紫色の豪奢で品のいい外套を羽織っているマリーは、もう何処から見ても・・・いいえ、もう外見だけではないのです。実質を兼ね備えた、立派な、一流の、『錬金術士』でした。
セレモニーも無事に終わり、いよいよ出発の時刻です。騎士団に警護され、馬車に乗ったマリーは、恥ずかしそうに群衆に手を振っています。私は遠くから人混みの一番外側から見ていました。
そして、馬車は城門をくぐり街の外へ来、群衆の列も終わりに近づいた頃、
「ちょっと止めて!!」
マリーは一言言い、止まるやいなや、馬車を飛び降りました。
「シア!」
群衆をかき分けてマリーがこちらへやってきました。
「マリー・・・・・・。」
「ちょっと言い忘れてたことがあって・・・・・・。
シア・・・、今まで色々迷惑かけてごめんね。
みんなにもマリーが謝ってたって、言っといてくれるかな。
・・・でも、ホントにホントにありがとう。
私、シアのこと忘れない。ぜったいぜったい忘れない。
・・・みんなと過ごした日々、ぜったい忘れない。
たとえどんなことがあっても。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あっ、涙なんてダメだよ。笑ってお別れしよ?」
「・・・・・・・・・・・・ええ、そうね。・・・約束、したんだものね。」
笑顔を作った私を、マリーは抱きしめてくれました。本当に本当に最後の・・・・・・、いいえ、最後にはならないと信じていたい、しばらくは感じることのできないであろう、温かくて、柔らかで、全てを包んでくれるような、温もり・・・。
「シア・・・・・・大好きだよ。」
「・・・・・・うん。」
・・・・・・その後のことはあまり覚えていません。ただ、覚えていることといえば、
こちらを向いて笑顔で手を振りながら、馬車の方へ走るマリー。
そして地平線に消えゆく夕日。
その夕日に吸い込まれ、輝きながら消えてゆくようなマリー。
やがて全てが終わった後、私は一人でいることに気づき、家へ帰ったのでした。
不思議と涙は出ませんでした。マリーとの約束がそうさせていたのかも知れません。
・・・・・・ここで、このお話は終わりにしたいと思います。
・・・一応、その後のお話をしておきましょう。
・・・・・・ルーウェンさんは村を出て行きました。両親探しを再会するそうです。
・・・・・・ミューさんも一緒について行ってしまいました。
・・・・・・クライスさんは、より技術を高めるため、また、新たな物質を生み出すため、
マイスターランクへ進み、研究室へ籠もりっぱなしになり、街へは出て来なくなってし まいました。
・・・・・・また私、ひとりぼっちになってしまった・・・・・・。
マリーがこの村へ来る前の・・・・・・。
・・・そしてここザールブルグは、何事もなかったように、
いつものザールブルグに戻ったのでした。
・・・・・・あれからどれくらいの月日が流れたのでしょう。
そしてまた今年も、アカデミーの入試が行われようとしています。
マリーのおかげでアカデミーは超有名な魔法学総合教育施設となったのでした。
各地から多くの受験生が集まり、街は活気を取り戻してきました。
今年はどんな生徒が誕生するのでしょうか。
そして、あのアトリエに住む運命の人はいるのでしょうか。
街が活気を取り戻したおかげで、私も毎日の生活が楽しいです。
・・・・・・でも・・・・・・、やっぱり何かが足りない・・・・・・
・・・・・・たぶんそれは・・・・・・・・・・・・。
私は今もマルローネを待ち続けています。
村から飛び出してきたときのように、今すぐにでも、
不意に私の所へ戻って来てくれるような気がして・・・・・・。
風の便りで様々な噂を耳にします。
伝染病から村を救った少女の話、
恐ろしい悪魔を不思議な力で倒したという勇敢な少女の話・・・。
私は毎日思うのです。
マリーは今何処で何をしているのだろう、と。
でもこれは誰も知りません。
私は待つことしかできないのです。
マリーが笑顔で帰ってくるその日を夢見て。
(Fin.) |