| あの二日間の出来事、ふたつめ 本音
私は家に寄り、少し遅くなると言付けをし、マリーと一緒にこの街で一番大きな木の下にやってきてそこの芝に腰を下ろしました。見上げると、まんまるで白くて大きいお月様が真っ黒な夜空にぽっかりと浮かび、私達二人をその優しい光で照らしてくれているのでした。
そして私達は何をするでもなく何を話すでもなく、ただそこにいるだけ・・・・・・ホントはいろんなこと、話したいこと、いろいろあったはずのに、いっぱいありすぎて・・・・・・でもそれでも、こうして2人で居られるだけで・・・・・・私達二人が、今この時を、空間を、共有しているという事実がある。もうただそれだけで幸せでした。
この時が永遠に続いてくれれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ああっ!!」
「!!!」
突然マリーが大声を出すので私はビックリしてしまいました。気持ちを落ち着かせてマリーを見るとなにやら向こうを向いて鞄の中を探しているようです。
「・・・・・・どうしたの?」
「へへっ♪ナイショだよ♪いやー。私ってば危うく忘れるところだったわ♪・・・・・・あ・れ?・・・で・も? ・・・・・・く・ら・く・て・よ・く・わっ・かん・ない・なっっ・・・。・・・んー?あれぇー?」
「マリー?」
「もうちょっと、もうちょっと、待って。」
「ねぇ、マリー?」
「もうちょっと待ってってばぁ。」
「そうじゃなくて・・・・・・。」
「??」
「・・・・・・そのランプを使えば?」
「!!・・・ははっ、そうね。そうしよ、そうしよっ。」
「私が持っててあげるわ。」
「だめっ!」
「どうして?」
「ナイショ♪ ナイショ♪ 見せるまでナイショよーん♪」
そう言ってマリーは明かりの灯ったランプを傍らに置き、鞄を隠しながらまた何かを探しています。・・・・・・私は暫く待つことにしました。その間にもマリーの鞄からはアレでもないコレでもないと放り出された物が、既にかなり散乱してきています。・・・これをまた後で片すのたいへんそうね。そう思った瞬間・・・・・・。
「あ゛っ!!」
!! あーびっくりした。しかし今度はどうしたのでしょう。向こうを向いたまま固まって動きません。
「今度はどうしたの?」
しかしマリーは動きません。私はマリーが返事をするのを待ちました。でも、私の声がマリーの耳に届いていないのがわかって、私はマリーに寄っていきました。そしてマリーの前に回り込み顔をのぞき込みました。
「どうしたの?」
再びマリーに声をかけました。するとマリーは、半ば放心状態のまま言いました。
「ペンダントが・・・・・・。」
マリーの手を見ると2つのペンダントがあります。
「シアにプレゼントしようと思ったのに・・・・・・。」
「ホントに?・・・・・・でも、どうかしたの?」
「壊れちゃってる・・・・・・。」
マリーの手を見ると、シンプルなんだけれども上品な首飾りというかペンダントのような物がありました。
「そんなの関係ないわ、気持ちだけでも嬉しい位よ?」
「そ、そう?」
「そうよ。」
途端にマリーの顔が明るさを取り戻しました。
「ありがとっ、シア! えーとっ、コレがシアのでっ、コレが私のねっ! へへっ♪ ペアペア〜♪」
実際、壊れたと言ってもちょっと装飾品に傷が入ったくらいで、大したことはありません。
しかし、その中心に埋め込まれた大きな宝石を見て私は驚きました。
「これコメートじゃないの!? どうしたのこんな高価な物!? 高かったんじゃないの!? マリーには悪いけど、こんな高価な物もらえないわ。」
「そんなことないって、だいじょうぶよー。」
「だって・・・・・・。」
「うーん。しょうがないなぁ。ホントはね、実験で作ったコメートが余ってたのよ。だから、お店の人に、このペンダントを作る分以外に、代金代わりに宝石をあげて作ってもらったから、ほとんどお金はかかってないのよ。だから心配しないで受け取って。」
「そ、そう・・・・・・じゃあ、ありがたくもらっておくわ。」
「うん。」
「今ここでつけてみていいかしら。」
「あっ、待って。私がつけてあげるっ。」
「そう? じゃあおねがいするわ。」
「うん。じゃあ私のペンダント持ってて。」
そういうとマリーは自分のペンダントを私に渡し、ランプの横に私を座らせ、自分は後ろに回ってつけてくれました。ペンダントをつけると、私の前に鏡が出てきました。マリーがかざしているのでした。
「うん。とっても似合ってる。よかった・・・・・・キレイだよ、シア・・・・・・。」
「ふふ、ありがとう。じゃあ次はマリーの・・・・・・」
すると、不意にマリーの手から鏡が滑り落ち、芝の上にコトリと落ちました。
「マ・・・・・・!?」
今度は、後ろから強く抱きしめられました。マリーの顔を見ようとしましたが、うつむいているうえに、前髪がかかっていてよく見えません。しかし身体は微かに震え、口元は歯を食いしばり、その頬には一筋の光があります。
マリーの身体から微かに発せられる震え。
それが強くなると共に、止めどなく溢れる涙。
私を、私の心を、抱きしめ、堅くきつくなる、抱擁。
痛いほどに抱きしめられる。
しかしそれは肉体的な痛みではなく、もっと精神的な痛み。
これはきっと、マリーの心の痛み、苦しみ・・・・・・。
そして、何かを求めているような・・・・・・。
私の手の中で揺れるマリーのペンダント。
同じようにマリーの心も揺れているはず・・・・・・。
もし今、無理矢理この手を振りほどいてしまったら、
脆くも崩れ去ってしまうような気がする・・・・・・。
そして、マリーが何処か遠くへ行ってしまうような気がする・・・・・・。
今は、待とう。マリーを、待とう。もう暫くこのままで・・・・・・。
きっともうすぐ、マリーの心の声も溢れてくる。
私でも、そんなに聞くことの出来ない、心の、奥の奥の、声。
それを私は受け止め、答えるんだ。
それが今、私にできること・・・・・・。
・・・・・・そんな気にさせる、抱擁。
「・・・・・・・・・・・・。」
「わっ・・たっ・・しっ・・・・・ひぐっ。シアっ・・から、離れったく・・・・・・なかっっっ、た・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・こんな・・・・・・こんっな・・・・・・勝手なことっって、・・・・・・無いじゃない・・・・・・非道いっ・・じゃっない・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「う゛っっ・・・。・・・わた・・・し・・・だっ・・・て・・・こう・・・する・・・ことが・・・ひぐっっ・・・この・・・国の・・・為に・・・・・・みんっ・・・なの・・・命を・・・救っう・・・為に・・・・・・なる事ぐらい・・・・・・う゛うっ・・・分かっ・・・て・・・る・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・うぐっ・・・でも・・・でも・・・うっ・・・だからと・・・言って・・・・・・ヒッグッ・・・・・・そん・・・な・・・簡っ・・・単っ・・・に・・・。・・・はい・・・そう・・・です・・・か・・・と・・ヒックッ・・・素直・・・に・・・応じる・・・事が・・・出来っ・・・る・・・程・・・・・・私・・・私・・・・・・大人じゃ・・・無い・・・よ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あたし・・・あたし・・・、シアが、シアがいないとっっ・・・うっ・・・うっっ・・・ぅあぁーん!あぁぁー!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「うっっ・・・う゛ぅぅぅっっ・・・・・・・・・。」
・・・・・・いつの間にかマリーの腕の力は抜けていたので、私はマリーに向き直り、頭をそっと抱きしめました。そして・・・・・・。
「マリー・・・・・・。」
「うぅっ・・・ひっく・・・うぅ・・・。」
ガバッ!・・・・・・・・・・・・ぶちゅっっ!
「・・・??・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!っ! んーっ! んんーっ!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「んっんっ・・・・・・・・・・・・んがぁっ! ぶぅはぁっっっっ! ぜーぜーぜー、んぐぅっ。
んな、な、なな、ななっなにすんのよぉー!! シアー!!」
「私のマリーへの愛情、なんてねっ、ふふっ。もう元のマリーね。元気になったわねっ♪」
「あっっ・・・・・・・・・・・・。」
「うふっ。でもね、本当にマリーはこうじゃなきゃ。『元気だけが私の取り柄』いつもそういってたでしょ?」
「・・・そうだっけ・・・・・・『あきらめの悪いトコ』とは言ったけど・・・・・・。」
「・・・・・・なんか言った?」
「いいえっ! なんにもっ!」
「・・・・・・ふふっ。」
「へへっ・・・・・・。」
「うふふふふ・・・・・・。」
「へへっ、えへへ・・・・・・。」
私は立ち上がり、マリーの後ろに回ってペンダントを付けながら言います。
「・・・・・・少しまじめな話をするとね・・・・・・。」
「うん?」
「二度と逢えなくなるわけじゃないんだから、そんなくよくよしちゃダメよ!? って事ね。」
「う、うん・・・ごめん・・・・・・。」
「そ、そんな謝ること無いわよ。・・・・・・ハイできた・・・。・・・ホントは、私も不安で不安でたまらなかったのよ。マリーが普通にしてたら、私の方がきっと、
『私、不安なの! マリーがもう二度と帰ってこないような気がして!』
って言ってたわきっと。」
「へぇ、そうなんだ。それ聞いたらちょっと損した感じ。でもやっぱり安心した方が大きいかな。ま、ともかく私だけの一方的な押しつけじゃなくてよかったかな。」
「あ、あとね、私からの助言♪」
「? え? なに?」
「さっきも言ったけど、二度と逢えなくなるわけじゃないんだから、元気出して。」
「うん。」
「それに、確かにいろんな国を巡るんだから、色々大変だとは思うけど、結局なるようにしかならないんだし、もし一大事があっても、案外どうにかなるってものじゃない?」
「う、うん。」
「今までもそうだったんだし、ね?」
「うん。・・・・・・ん? ひっどーい! それってまるで、あたしが今まで、行き当たりばったりで生きて来たみたいじゃなーいっ!」
「あら? 違ったかしら?」
「ちがうわよぅっ!」
「・・・・・・くすっ。」
「・・・あはっ、あははは。」
「・・・・・・あ! そうだわ! じゃ、約束しましょ?」
そう言って私は、右指の小指を立ててマリーに見せます。マリーはそれを見て不思議そうな顔をして、目を丸くし、ぽかーんと口を開けています。
「?? なに?」
「依頼が全部終わったら、真っ直ぐザールブルグへ帰ってくること! ね? わかった?」
「え? あ、ああ、うん。」
「そして、私の家の玄関を叩いて、それと同時に大声で私の名前を呼ぶの。今日の朝と同じように。まるで、その時までいつもそうしてきたように。」
「・・・・・・うん。わかった。約束する。」
「よかった・・・・・・。」
「・・・・・・でも、ちょっと、て言うか、大分遅くなっちゃっても・・・・・・怒んないでね?」
「ダメ。」
「え〜っ、そんなぁ〜っ。私が、時間にルーズなの知ってるくせにぃ。」
「ふふっ、冗談よ冗談。大体、いつになるのか分からないんだものね・・・・・・。・・・はい、じゃ指切りげんまん。」
「うん。あ、じゃ私からも提案っ」
「え? なぁに?」
「明日別れる時と、今度また会うとき、二人とも笑顔で! ・・・どう?」
「・・・ええ。わかったわ。」
マリーの出した小指と、私の小指。その二つを堅く結び会い、二人で歌います。
「ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん、うっそつ〜いた〜ら、は〜りせんぼんの〜〜ますっっ! ゆ〜びきった!」
「・・・はい。これでOKね。もう約束したんだから、絶対戻ってきてね。」
「うん。約束だからね。」
「・・・じゃ、頑張ってね!」
「うんっ! ありがとっ! 何かヤル気が出て来たわっ! シアも頑張ってねっ!」
「え、ええ・・・・・・。」
私、マリーに強がって見せたものの、私の心の中の、
−マリーにもう二度と逢えなくなるかも知れない−
という不安は拭いきれていなかったのでした。
それどころか、心の中で生まれ落ちた思いは、波紋となり、さざ波になり、今や、更に大きくうねりだす様相を呈しているのでした・・・・・・。
そこで私は思うのでした、
── 一分一秒でも長く一緒にいたい ──
そう思うと、既に私は言葉を発していました。
「・・・・・・ねぇ、マリー?」
「? なあに?」
「またもう一つお願いしたいんだけど・・・・・・。」
「え? ああ、なぁに? 何でも言って?」
「うん。ありがと・・・。・・・あのね、今日、マリーの家に泊めてもらって、いいかな?」
「え!? イイよもちろん!」
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